プラハから50キロほど行ったところにあるユダヤ人村に、
奇跡を起こすことで有名なラビがいた。
そこで毎日、病人やいろいろな悩みを持った人たちがそのラビを訪ね、
その度、彼の奇跡によって救われていた。
ある日、一人の女が駆け込んできた。ラビの秘書が応対に出ると、
女は泣きながらハンドバッグから一通の手紙を取り出した。
秘書が目を通すと、夫からの離婚を求める手紙だった。
「あなたは奇跡を信じますか?」
秘書は女に訊ねた。
「このラビが奇跡を起こすことはヨーロッパ中で有名です。
だからこそ、私はパリからずっと夜汽車に乗ってやってきたのです」
「では、しばらくお待ち下さい。ラビに手紙を見せて、
ラビの言葉を聞いて来ましょう」
女がしばらく待ち合い室で待っていると、秘書が戻ってきた。
「御婦人よ、よろしいですか。ラビはこう言われました。
『128時間と54分と12秒後に、あなたの夫はあなたのところへ戻るでしょう。
そしてもう二度と離婚の話は出ないはずです』と。
ですから、すぐにパリへ帰りなさい」
女は泣き腫らした顔に満面の笑みを浮かべながら、待ち合い室を出て行った。
一方、秘書はラビのところへ戻って訊ねた。
「ラビよ、私はあなたが奇跡を起こすのを信じています。
今まで、ずっと奇跡が起こるのを見てきました。
しかし、今の予言だけは、どうしても信じられません」
ラビは驚いて、秘書に訊ねた。
「私が今まで予言して、起こらなかったことがあったかね?」
「いや、今まで一度もありませんでした」
「それだったら、どうして今度だけは信じないのかね?」
「あなたは手紙だけを見ました。私はあの女の顔を見たんです」
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