妄想

 

自分がネズミであるとの妄想を持った男が、

ようやく精神病院から退院することになった

ところが病院の出口で立ちすくんでしまい、出ようとしない。

医者が不思議に思って理由を訊ねると、男が答えた。

「だって、あそこに猫がいるんです」

「しかし、君はもうネズミではないということがわかったはずじゃないか」

「確かにそうなんですが、猫の方がわかっていないかもしれません」

 
 

前線

 

ロシア戦線で捕虜になったドイツ兵が、ユダヤ人の見張りに向かって言った。

「我がウィルヘルム皇帝は大したものだぞ。毎週一度は前線にお出ましになる」

「なあに、我がニコライ大帝様はもっと偉いよ。自分じゃ動かずじっとしていても、

 毎週前線の方がひとりでに近づいて来るんだから」

 
 

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