最近はイスラエルでも官僚制がひどくて、
どこの役所でも簡単な書類をもらうために、行列をしなければならない。
住民票をもらう時、税金の納付、運転免許証の書き換え、パスポートの申請・・・。
とにかく役所と聞いたら、すぐに行列が頭に浮かぶほどである。
アメリカからイスラエルに移民して来たばかりのアブラハムは、
もうこれには耐えられなかった。
アブラハムは役所の帰りに、友人のモシェに出会った。
「俺はもうこんな非能率的な国には耐えられない。何とかしなければならない。
誰が悪いと言えば、これはゴルダ・メイヤー首相だ。
ゴルダ・メイヤーさえ暗殺すれば、すべてがよくなるはずだ。
俺は必ずあいつを暗殺してやる」
とアブラハムは言った。
「へえ、そんなことができるのかい? できっこないよ。
そんな度胸があるはずがないよ」
モシェがからかった。
「いや、必ずやってやるよ」
一ケ月後に、アブラハムが役所で行列をしていると、また、モシェに出会った。
「おい、アブラハム、首相はお元気のようだな」
モシェはひやかした。
「いや、この間、メイヤーを暗殺しようと思って首相官邸へ行ったんだ。
そうしたら同じことを考えている奴が多いらしく、
長い行列が出来ていて、並ぶのが嫌になったから、やめたのさ!」
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