Volume64
 
 

 あまり遠すぎると本当の価値は見えない。
 あまり近づきすぎると本当の価値を見失ってしまう。
 あまり長すぎると本当の価値に慣れてしまう。
 あまり短すぎると本当の価値に触れることは出来ない。
 本当の価値は無くなった時にだけわかるものなのかも知れない。

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 人々よ
 同じ状況の人間を見つけて、自分を正当化することなかれ。
 どんなに仲間がいたところで、どんなに正当化したところで
 所詮あなたは負け犬である。

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 日本人は問題を複雑にするのが好きだ。
 複雑にしておけば、自分に解決できない言い訳もたつからだろう。

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 ヴェールに隠されたものは、ヴェールが取り払われた瞬間にその魅力を失う。

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 知性は知性を知る。
 知性は知性無きを知る。
 そして知性無きは、ただ知性無きを知るのみ。
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 私「仏教でいうところの輪廻転生って非科学的な話だと思うかい?」
 彼「人間は一度死んでも、また別にものになって生まれ変わって来るってあれだろう」
 私「そう、その生まれ変わりの思想だ」
 彼「ロマンチックだけど、とても現実的だとは言えないね。しょせん夢物語だよ」
 私「じゃあ、それが極めて科学的な思想かもしれないと言ったら・・・」
 彼「科学的だって!一体どこが?馬鹿馬鹿しい。俺には到底信じられないね」
 私「そうだろうな。でも俺には別の意味で信じられないんだ。そんな大昔の人間が現代科
   学の発見を予言していたなんてね。彼等は本能的に知っていたんじゃないかな。知識
   や常識といった余計な先入観が無いぶん、真実を鋭く直感し得たのかもしれない」
 彼「おいおい、そんな前置きはどうでもいいから、その科学的だという説明を聞かせても
   らおうか」
 私「そうだな。最近、遺伝子の研究が盛んだろう。その研究の結果として、実は人間の本
   質は遺伝子であり、肉体は単なる遺伝子の乗る船に過ぎないという説が発表された」
 彼「ああ、それは知ってるよ。それなら充分科学的だ」
 私「人間が生きるとは、親から受け継いだ遺伝子を、自己の人生においてより優秀なもの
   へと進化させることであり、子孫を残すことは、自分が進化させた遺伝子を次の世代
   に引き継がせ、さらに優秀な形態へとステップアップさせるための手段にすぎないの
   だと。しかもそれは遺伝子が発する命令なのだと」
 彼「両性による異種交配も優秀化の有効的一手段なんだってね」
 私「人間の生の意義は遺伝子の優秀化と子孫への継承であり、人間の生の本質は正にこの
   遺伝子の世代間バトンリレーにあるのだと」
 彼「実は主役は遺伝子ってことだよね」
 私「さて、ここらで輪廻転生思想にご登場願おう。人間には様々な欠点があり、一回の人
   生ではそれらすべてを克服することは出来ない。したがってあらゆる点で完成された
   理想形に至るまで、肉体は何度死んでも、魂はまた新たな肉体の中に宿り、再びこの
   世に生まれ変わる。そして前世から持ち越された欠点を克服せんがために、その人生
   において幾多の困難を乗り越え、より高い次元に到達するよう努める。それが輪廻転
   生の思想だが、魂を遺伝子に、新たな肉体を子孫に置き換えれば、この二つの考え方
   はあまりにもそっくりじゃないか」
 彼「そう言われてみれば、確かにそっくりだ」
 私「しかも輪廻転生思想では、前世の記憶がすべて消されたあとで、魂は生まれ変わるこ
   とになっている。親子の間でも遺伝子継承の際に親の記憶は子に継承されない。この
   点も見事に一致しているんだ」
 彼「なるほどね。そうかあ。輪廻転生思想って、実は単なる絵空事じゃなかったのかもね。
   極めて現実的な現象をベースにした話だったのかな。人間の生という科学を的確に、
   しかもその時代の人々に理解しやすい形で解説した一種のテキストのような気がして
   きた。芸術と言ったら言い過ぎだろうけど、例えば童話や風刺画のような一つの作品
   だという気がするよ」
 私「そうかもしれないね。ただ、もしそうだとすると遺伝子に関して二つの疑問が残るん
   だ」
 彼「二つの疑問?」
 私「輪廻転生思想では、魂には最終完成形が想定されているのだが、遺伝子にとっての最
   終完成形は存在しうるのかということ。遺伝子の優秀化とは、あくまで棲息環境に対
   する相対的優位性の獲得であって、環境が180度可変的なものである以上、それに対
   する優位性も可変的なものであるはず。したがって絶対的最終完成形というある固定
   した状態は、その本来の発達目的と矛盾しないかということ。言い換えれば、遺伝子
   はその可変的な状態を維持し続けることこそが究極の目的ではないのかということ」
 彼「ゴールなきチャレンジか」
 私「そういうこと。まあ、最終的にあらゆる環境に耐えうる状態が完成形と言えなくもな
   いが、まず実現不可能だろう。そういう風に考えてみれば、輪廻転生思想のいう魂の
   最終完成形だって人生を何回繰り返そうと決して到達するはずのないゴールなきチャ
   レンジと言えるだろうけど」
 彼「なら、その点でも両者は一致するってことだね。じゃあ、もう一つの疑問とは?」
 私「最終完成形を実現した魂はもう生まれ変わることなく涅槃・・・キリスト教でいう天
   国のような安住の地に行けるらしいんだが、これを遺伝子に置き換えると、もしある
   遺伝子が最終完成形を実現したとしたら、その遺伝子は子孫を残さないことになって
   しまう。つまり遺伝子の最終目標は人類の絶滅、つまり自己の消滅ってことになって
   しまうんだ」
 彼「自己が消滅しないように、人間以外の種に乗り換えるんじゃないのかな。例えば新種
   に進化しちゃうとか・・・」
 私「輪廻転生思想でも、生まれ変わる先は必ずしも人間とは決まっていないのだが、最終
   完成形を実現した魂はもう何者にも生まれ変わる必要はないんだ。同様に完成遺伝子
   なら他の種に乗り換える必然的理由など何一つ無いし、進化する必要も無いわけ」
 彼「確かに完成しちゃったんだもんな」
 私「では遺伝子の涅槃とは一体何なのかってことなんだ」
 彼「そうだねぇ・・・えっ・・・」
 私「何だ」
 彼「まさか・・・でも・・・そんなことが・・・」
 私「だから何なんだ」
 彼「馬鹿な話だと思ったら笑ってくれても構わないよ」
 私「笑わないから。さあ、何だ」
 彼「遺伝子が現実に決して到達するはずのないゴール。最終完成形を実現した遺伝子の子
   孫継承の停止。この二つのベクトルは明らかにある一点を指し示していないか」
 私「ある一点?」
 彼「そう。太古の昔より人間が望み続けてきた、あるとてつもない野望を」
 私「太古の昔?・・・とてつもない野望?」
 彼「遺伝子の涅槃、つまり最終目標は人類の絶滅なんかじゃない。むしろその逆だよ」
 私「その逆って・・・まさか・・・」
 彼「不老不死・・・永遠の肉体的生命さ」
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